相手を称える
投稿日時:2004/12/05新人記者に突如降りかかった社長連続失踪事件!完結編。
入社半年が過ぎた96年の暮れ、高橋の記者人生の大きな試練となる殺人事件が起きた。
※大変お待たせいたしました。11月26日の記事の続編です→前の記事はコチラ
逮捕された2人の容疑者AとB。
周辺取材によると、Aは地元で有名な詐欺師だという。逮捕前は鉱害復旧工事に絡んで小銭を掠め取ろうとしたり、最近では「韓国の済州島の土地を買収した」と周囲に吹聴していたらしい。一方のBは根っからの乱暴者だった。周囲から恐れられる存在だったようだ。
最初に逮捕されたAは取調べをノラリクラリとかわし警察も手を焼いていた。さすがは詐欺師といったところか。警察幹部も「やおいかんバイ(簡単にはいかんよ)」とこぼすほどだった。拘留期限が迫る中、なかなか事件の「核心」には迫れずにいた。
警察がBの逮捕に踏み切った背景には、「Bから事件の全容を聞き出す」方向への方針変更があったようだった。
Bが逮捕された翌日、突如として「その日」は訪れた。
それは春先の朝のことだった。飯塚警察署から何か発表があるという。記者たちに緊張が走った。
「失踪していた社長一人の遺体を発見。容疑者AとBを死体遺棄容疑で再逮捕した」
この時ばかりは驚いた。いつの間に?連日連夜あれほど徹底的に動きをマークしていたのに?昨日もそんな素振りは見えなかったはずだ。飯塚署に詰めていた大勢の記者が「やられた!」と地団駄を踏んだ。
警察と記者は微妙な距離感がある。警察側は記者に対し、発表モノ以外の詳細情報をなるべく出したくない。捜査の邪魔だというのがその理由だ。一方記者側は警察の動きを事細かに知りたい。報道の自由、権力の監視役というのがその表向きの理由だ。
そうしたせめぎ合いの中、今回は警察側の勝利だった。見事なまでの隠密捜査。署長以下、捜査員たちの苦労の賜物だった。真剣勝負。悔しかったが素直に相手の努力を称えることができた。
聞くと、容疑者Bは逮捕後すぐに遺体の場所を供述したという。ノラリクラリとかわしていたAも他人の口には戸を立てられなかったのだ。その後、我々記者たちは副署長とともに遺体が発見された造成地を訪れ、現場に手を合わせた。記者生活の中で何度も嗅ぐことになる"人の死臭"というものを初めて知った瞬間だった。
その後、容疑者Bはもう一人の社長の遺体の在りかも供述し、この凄惨な事件は一気に全容解明へと向かった。
容疑者AとBは、2人の社長にそれぞれ数十億円規模の「公共工事の受注話」を持ちかけ、軍資金名目の手付金を引き出させた上で殺害、金品を奪い死体を遺棄していた。これらの「公共工事」の話は架空のものだった。
こうして、筑豊・筑後地方にまたがって発生した連続社長失踪事件は、「連続強盗殺人、死体遺棄事件」へと最悪のシナリオをたどり、約半年間の取材の末、幕を閉じた。
・・・この日から丸7年が過ぎた2004年春、容疑者AとBに福岡地裁で一審判決が言い渡された。
「罪状、2件の強盗殺人罪、死体遺棄罪など・・・主文、Aに死刑、Bに無期懲役」
その後、2人は控訴し事件は今なお福岡高裁で審理中です。(終)
■今日のモチマネワード
モチマネワード015:「相手を称える」
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